症例ブログCase blog
血管肉腫(脾臓腫瘍)
2017年2月16日
10歳のゴールデン・レトリバーの女の子が、朝から食欲・元気もないとのことで来院されました。昨日の夜までは食欲・元気ともに旺盛だったそうです。
再度エコーにて腹腔内の腫瘤の有無を確認するのと同時に、腹腔内の液体の性状を見るため注射器で吸引。取れたものは血液様の液体で、脾臓(ヒゾウ)の腫瘍が破裂したために出血したものと判断し、開腹手術を行うこととしました。
術前に両前肢に静脈留置針を入れ、静脈点滴と輸血を同時にしながらの手術となります。
←同じゴールデンの子から輸血用の血液を分けてもらいました
通常通り開腹すると、腹腔内には血液様の体液がなみなみと溜まっている状態。そこでまず、体液を吸引除去し、視野を確保します。
脾臓を確認すると、一部が増大して巨大な腫瘤化していました。腫瘤はやはり破裂しており、夜中に大量出血したようで、手術時点では血餅で出血が抑えられてはいましたが、そこから血液が滲み出ている状態です。
脾臓は全摘出しても問題ない臓器なので、複数の太い血管を縛っては切断を繰り返し、腫瘤ごと摘出しました。
脾臓にできる腫瘤の2/3は悪性腫瘍で、さらにそのうちの2/3は血管肉腫という非常に転移性の高い腫瘍です。そのため、腹腔内の臓器への転移所見はないか念入りに確認しておきます。
今回、残念ながらこの子には肝臓の広範囲にわたって転移が認められました。
転移の認められる肝臓を摘出するのは不可能と判断されたので、負担を最小限に抑えるために速やかに閉腹することとしました。
麻酔が覚めた後も腹腔内出血で貧血状態だった子は、術後不整脈が出る場合があるので看視が必要です。
この子も夜中に不整脈が見られたのですが、抗不整脈薬などの治療で何とか乗り切ってくれました。
手術翌日からは高栄養食を勢いよく食べてくれたので、体力も回復していきました。
←病院の庭で自力排泄も出来るように。
摘出した脾臓は病理検査にまわしましたが、肝臓への転移所見から悪性腫瘍の可能性が高いため、早めに家族の元へ帰せるようにしました。
←祝退院!! 桃子からのビスケットプレゼント。
血液検査にて貧血傾向はあるものの、腹腔内出血なども見られず、体調も良さそうなので3日間で退院となりました。
自宅では高栄養食と薬の他、アガリクス茸も与えるという治療方法を選択。
抜糸する頃には病理検査結果が戻ってきていましたが、結果はやはり「血管肉腫」。
転移のある症例では術後、抗がん剤による治療も考慮する必要はありますが、今のところ友好的な治療方法の報告は見当たりません。飼い主様と話し合った結果、在宅で管理できるアガリクスやサメ軟骨などの民間療法を選択することとなりました。
この子は、徐々に食欲が低下していってしまったので、往診にて栄養点滴などの処置を行い、出張中のご主人様の帰宅を待って家族に見守られながら永眠されました。
血管肉腫は8歳以上の老齢になると発生しやすくなり、大型犬に多く、特にジャーマンシェパード、ゴールデン・レトリバーなどは最も発生の多い品種という報告があります。血管肉腫は三大悪性腫瘍といわれ、発見が遅れると腫瘍が破裂し突然死を起こすこともあります。
血管の集中している脾臓に最も多く発生しますが、脾臓は胃の横にある臓器で血液を溜め込むため、正常でも大きくなったり縮んだりする臓器です。そのために発見し難い部分でもあります。腫瘍部位の破裂や出血などが起きない限り通常の血液検査による発見は難しく、貧血でふらつくといった症状で来院され発見されることも多くあります。
時に、運良く定期健診などのレントゲン検査で腫瘤が見つかったり、避妊手術などの開腹時に腫瘤を発見したりすることもあります。
治療は外科手術が第一選択です。血管肉腫は非常に転移率が高く、摘出後の平均余命は1年以内との報告もあり、特に肝臓に転移している症例の予後は不良といわれています。
別の10歳オスのゴールデン・レトリバーで、夕方まで食欲・元気ともに普通通りだったのに、夜急に震えだしたとのことで来院した症例です。
血液検査・エコー検査・レントゲン検査などで脾臓の腫瘤が見つかり、さらに腹腔内に停留したままの睾丸が腫瘍化しているのも発覚したので、摘出手術を行いました。
摘出した脾臓の病理検査は「血管肉腫」、睾丸は「セルトリ細胞腫」と共に「悪性」という結果でした。ただ「血管肉腫」の転移所見は見られず、手術からちょうど3年後に14年弱の犬生をまっとうして天国へと旅立たれました。
「血管肉腫」は早期発見・早期摘出が重要。7歳になったらドッグドックなどを行い、えこーやレントゲンで脾臓のチェックをすることをお勧めします。