症例ブログ|小牧市堀の内で動物病院をお探しの方は小牧獣医科病院まで

Tel. 0568-72-8221
〒485-0046 愛知県小牧市堀の内3-77・78

  • 電話
  • メニュー

乳腺腫瘍

2017年2月16日

乳腺腫瘍は、乳腺にしこりができるので飼い主様が気付き来院される事が多い腫瘍です。乳腺腫瘍は雌犬の腫瘍として最も一般的で、雌の全腫瘍の約50%にも相当します。乳腺腫瘍は早期発見できる腫瘍でもあり、小さなうちに摘出手術をすることで完治する事ができる病気です。

術前の血液検査や肺のレントゲン検査(転移の確認)を行います。

鎮痛薬の注射後、麻酔をかけお腹の毛を刈ります。
腫瘤がはっきりとし、小さな腫瘤も確認できます。

赤ペンでマーキングしてあるところがしこりです。

①単純乳腺摘出術
腫瘍ができている乳腺だけを摘出します。手術時間は短くてすみますが、隣接した乳腺にリンパ管を介して転移する可能性が58%ほどあるという報告もあります。
②領域乳腺摘出術
腫瘍がリンパ管で繋がっている領域内のみにある場合に選択されます。リンパ管で繋がっている領域とは、左右共に上部3つの乳腺と下部2つないし3つの乳腺に分かれます。リンパ管で繋がっている乳腺を摘出するので隣接した乳腺に転移する可能性は低くなります。摘出する範囲が比較的小さいため、手術時間も比較的短くてすみます。
③片側乳腺摘出術
片側の乳腺を全て摘出する方法で、腫瘍が片側だけにできているときに選択されます。上2つの術式に比べると切除する範囲が大きいため、比較的手術時間が長くなります。
④両側乳腺摘出術
全ての乳腺を摘出する方法で、腫瘍が両側の乳腺にできているときや片側にしかできていないが予防的に反対側の乳腺も摘出する場合に行います。再発の可能性は最も低いですが、広範囲に切除する為、手術時間が長くなり、術後の皮膚の癒合に時間がかかる傾向があります。
今回の症例は、腫瘍自体は小さなしこりですが左右の乳腺に沿って点在しているため、腫瘍の存在する下部3つの支配領域乳腺ごと摘出する術式を選択しました。

腫瘍への栄養血管に気をつけながら切開しては止血し、切開しては止血するといった作業を繰り返し、出血をコントロールしながら乳腺ごと腫瘍を摘出していきます。

腫瘍を全て摘出したら、皮下織(皮下脂肪)を寄せるように吸収糸で縫合し、皮膚をナイロン糸で縫合します。
切開創が大きければ大きいほど皮膚が寄り難くテンションがかかってしまうので、術創に力が集中しないような縫い方をします。

傷口を保護する為にタオルで服を作成して着用させますので、9割以上の子がエリザベスカラーをつけずに術後過ごすことが出来ます。

摘出した腫瘍を病理検査に出し、詳細に検査をしてもらいます。
結果は良性乳腺腫ではあるが、乳管内に悪性のガン細胞が認められるとのことでした。

抜糸後、悪性の場合3ヶ月毎にレントゲン撮影に来院していただき、肺などへの転移の有無を確認していく事をお勧めします。

術後1年経過しました。乳腺にも肺や肝臓にも転移が見られないため今回で経過観察を終了とします。

乳腺腫瘍は発生頻度が高い腫瘍ですが、女性ホルモン依存性が高いため、初回生理前に避妊手術をすることで発生率を約0.05%まで抑えることが出来ます。未避妊犬は避妊犬より7倍発生頻度が高いといわれていますが、出産などを考え避妊手術が遅れた場合でも、日ごろからお腹を触りしこりがないか確認していただき早期発見に努めていただければ、今回のように命に関わるような事はありません。しこりが3cm以上になると転移の可能性が高くなります。3cm以下、できれば5mm程度で手術し、同時に子宮卵巣摘出もしておけば再発や転移の恐れは低くなります。

最後に、この症例は外で飼育されている毛の長い子で食欲・元気がなくなり来院された時には、腫瘍が自壊し異臭を放ち、レントゲン検査にて肺に転移が見られたため手術が出来なかった症例です。

転移している場合は根治するのは難しいが、食欲・元気があれば外科手術・放射線治療・抗がん剤治療やきのこ類に含まれるβグルカンやサメ軟骨のようなサプリメントなどを組み合わせ、症状の悪化を押さえ生活の質をよりよくする事はできます。あきらめる前に一度ご相談下さい。

乳腺腫瘍は雌犬だけでなく、発生頻度は低いですが雄犬や猫でもみられます。ただ、雄犬や猫に発生するしこりは悪性の可能性が高く、猫の乳腺腫瘍の80%以上が悪性だとも言われていますので、すみやかに治療し始める事をお勧めします。