症例ブログCase blog
肘関節脱臼
2017年2月16日
飼い猫が昨日外から帰ってきたら右前足をビッコ引いているとの事で来院されました。
診察室ではほとんど右前足をつかない状態。触診にて肘関節を曲げようとすると痛がり、腫れているのでレントゲン検査をしようにも痛さから暴れてしまうので、鎮静下でレントゲン撮影をしました。
レントゲンの結果、右前肢の肘関節が脱臼しているのが確認されました。
周りの筋肉が痛みから固まっていると、脱臼を戻すことが難しいので、追加で麻酔をかけ、筋肉を弛緩させます。
脱臼整復前は10分程度筋肉がより弛緩するように右前肢を吊り上げておきます。
その後、関節が入るように力加減を調整しながら、曲げたり伸ばしたりひねったりして脱臼の整復を試みましたが、肘関節は構造が複雑なため整復が困難と判断し、手術を行うことにしました。
慎重に筋肉や神経を分離して、脱臼してしまった肘関節にアプローチします。
上腕骨(肩から肘までの腕の骨)の肘関節近くに医療用ドリルで人口靭帯を通す穴を開けます。
尺骨(肘から手首までの骨)の肘関節近くにドリルで人口靭帯を通す穴を開けます。
上腕骨に作った穴に人口靭帯を内側から外側に通します。次に尺骨に作成した穴に外側から内側に向かって人口靭帯を通します。
手術直後のレントゲン写真。脱臼の整復が確認できます。尺骨・上腕骨ともにドリル孔が直径0.28cmと明瞭に認められます。
患部の出血を抑え、腫れないように軽く圧迫包帯をしておきます。
術後は抗生物質・抗炎症剤・鎮痛薬を投与し、ケージ内で安静にしていてもらいます。
術後6日目に右前肢を軽く着地するようになったので、退院としました。
術後10日目の皮膚縫合部の抜糸時には、右前肢をかばいながらも走ったりすることができるまで回復していました。
術後約2カ月経過した時点で肘関節の確認のためのレントゲン検査では、人口靭帯の通っている穴が若干広がっているようでしたが、再脱臼や炎症も見られず、経過良好で歩行もかばうことなく正常な状態となっていました。
人口靭帯が異物反応を起こし炎症の原因になったり、人口靭帯が切断してしまったときに歩行障害を引き起こしたりする可能性があるので、術後2~6ヶ月くらいで人口靭帯を除去します。
人口靭帯の除去手術は皮膚を一部分切開し、局所の筋肉を分離し、人口靭帯を切断後、引っ張り出すという方法なので、翌日には患肢の着地も出来るようになるため退院できてしまいます。
適切な時期に除去すれば、人口靭帯を除去しても肘関節周囲の関節包や筋肉などの組織で関節の動きは維持され、再脱臼も防ぐことが出来ます。
外傷性肘関節脱臼はそれほど多くある症例ではありません。
人口靭帯を使用し、外見上はほぼ正常な状態に戻すことが出来たことで、飼い主様には治療結果に満足していただきました。ただ、脱臼整復後は、定期的にレントゲン検査を行い、再脱臼の可能性や変形性関節症の所見がないか確認していく必要があります。